秋の夜長は漫画を読みたい!

皆さんは漫画がお好きですか?
秋の夜長、もし「自由に時間を使っていいよ」と言われたら何をするだろう、と考えた時、ふと浮かんだのは「好きな漫画をただひたすら読みたい」ということでした。

私は漫画が好きです。
現在は『ハイキュー!!』(作/古舘春一)という、週刊少年ジャンプで連載中のバレーボール漫画が大好きでずっと応援しているのですが、もともとは、新しい 物を追い求めるよりは、昔読んだ漫画を懐かしく思い出すのが好きな、どちらかというと懐古主義の漫画愛好家です。この秋、読み返したいなあ、と思っているのも『海の闇、月の影』(作/篠原千絵)と『幽☆遊☆白書』(作/冨樫義博) という、今の若い方には馴染みが薄いかもしれない作品なのですが、これらの作品についてお伝えしたく、この記事を書いています。

幼少期に母の影響で大島弓子作品を読み始め、小学生向け雑誌で連載していた 『あさりちゃん』(作/室山まゆみ)に夢中になったのが、私の漫画とのなれそめです。

その後は、近所に住む年上の女性宅で『別冊フレンド』や『別冊マーガレット』を読んだり、誰かが要らなくなった漫画があればどんなジャンルでも必ず貰い受けたり、帰省の時だけ買ってもらえる『なかよし』や『りぼん』を何度も何度も読んだり、と、お小遣いの少ない子どもなりに漫画と密につきあい続けました。その頃は、あさぎり夕先生や水沢めぐみ先生、あゆみゆい先生が好きで、早く制服を着て学校に通いたい! 恋や夢に悩みたい! と思ったものです。

小学校4年生のときに、近所のお姉さんから、漫画雑誌『月刊少女コミック』を大量に貰う、ということがありました。当時の少女コミックでは、TVドラマ『せいせいするほど、愛してる』原作でおなじみの北川みゆき先生や『♂(あだむ) と♀(いぶ)の方程式』のすぎ恵美子先生らが、ちょっとエッチな恋愛漫画を連載されていたのですが、その中で異色を放っていたのが篠原千絵先生の『海の闇、月の影』です。これがもう名作で、篠原千絵先生作品ですと『天は赤い河のほとり』や、雛形あきこ主演でドラマにもなった『闇のパープル・アイ』が有名ですが、初めて出会った篠原作品というファーストインパクトもあいまって、私はこの『海の闇、月の影』が大好きです。

簡単なあらすじをお伝えしますと、まず、高校生の流水(ルミ)と流風(ルカ) という2人の女の子がいます。2人は仲の良い一卵性双生児で、ともに陸上部に 所属しています。何もかもそっくり同じだった2人ですが、ある日、2人の憧れ だった当麻克之先輩が、流風に告白してきて......。

ここから惚れたはれたのラブストーリーが始まりそうですが、篠原千絵先生はそんなことはしません。当麻先輩に失恋した流水は、流風に「ちゃんと返事しなよ」とサバサバした様子をみせ、流風もホッと一安心、翌日の女子陸上部ハイキ ングに2人仲良く出かけるのですが......ここで、女子陸上部のほぼ全員が、死にます。生き残ったのは流水・流風の双子と、ハイキングに参加しなかった朝子先輩だけ。そして、また不可解な事件が―、と書くと、殺人ミステリーのようですが、違うのです。これ以上は不粋なネタバレ、あとは読んでいただければと思います。ちなみに私はこの漫画で「処方箋」という言葉を覚えました。

何が起こるかわからないサスペンス感はもちろん、双子の、姉妹ならではの愛憎が描かれている点が大好きなので、「姉妹もの」がお好きな方には特に読んでいただきたい漫画です。

「そっくりの双子で、何もかも同じなのに、どうして自分ではなく、妹(流風) の方が大好きなあの人に選ばれたのか?」

という苦しみに囚われた流水は、憎みきれないダークヒロイン。デイン・デハー ン主演の映画『クロニクル』が好きだった方にもおすすめです。

そして『海の闇、月の影』のオリジナル・サウンドトラックCDを購入し、全台詞全モノローグを暗唱できるまでになった11歳のお正月、私は『幽☆遊☆白書』第5巻と衝撃の出会いを果たします。祖母の家に従姉が忘れていったその1冊を、予備知識もなくいきなり読んだにも関わらず、その漫画は私の心をとらえ、離し ませんでした。

『幽☆遊☆白書』第5巻は、霊界探偵となった主人公・浦飯幽助が、霊界からの指令で「四聖獣」という邪悪な妖怪を倒しに行くが、果たして......といったエピソードが描かれている巻です。今まで、超能力や魔法は扱われていても、主に人間界が舞台の少女漫画にどっぷり浸かっていた身に、突然の世界観です。ティーンネイジャーに足を突っ込みかけた年頃の娘に、そんな「妖怪を倒す」漫画がドンピシャとハマってしまったのは何故なのでしょうか。

『幽☆遊☆白書』には冨樫義博先生の美学が詰まっているから―、連載終了まで週刊少年ジャンプを買い続けた私は、それが答えだと思っています。

連載初期~中期には、「人気のある方向性でいってほしい」「バトルで読者を喜ばせてほしい」等という編集側からの要望がおそらくあったのだろうな、という方向転換が幾度となく垣間見える『幽☆遊☆白書』ですが、それでも、冨樫先生が「譲れないところは譲らないで描く」と言外におっしゃっているのがわかりま す。

また『幽☆遊☆白書』及び冨樫先生の作品では、登場人物が、更に言えば”女性”が、生身の人間としてしっかりと描かれています。私はもともと少年漫画が苦手な少女だったのですが、その理由の一つに「女の子が変にエッチに扱われたり、ただ弱いだけだったり、そうでなければやけにヒステリックな感じに描かれるのがイヤ」というのがありました。そうして少年漫画を遠ざけていた小学5年生の私が「『幽☆遊☆白書』だったら読める、大丈夫!」と思ったのです。

『幽☆遊☆白書』に出てくる女性は、基本的に精神が自立しています。人間の女性も妖怪の女性も、子どもも大人も出てきますが、皆それぞれ性格があって、それぞれの生き方を選択していて、いきいきとしています。造形としてセクシーなルックスで描かれるキャラクターがいても、ただ性的に搾取されるようなことはありません。そういった目に合うことがあっても、それは忌むべきことだと作品の中でしっかりと描かれます。

私が初めて手にした5巻でも、ヒロイン絶体絶命大ピンチのシーンがあり、彼女も最後の最後には「助けて!」と心では言うのですが、それまで、本当にぎりぎりまで全力で応戦します。自分の知恵と勇気で一矢報いるシーンもあり、痛快です。

「暗黒武術会篇」では”強さとは何か?”、「魔界の扉篇」では”人間とは守るに値するのか?”と問いかける冨樫先生。バトル漫画を描きながらも、ただ「戦って 勝って僕は強いぞ!」にとどまることなく、その先へ向おうとする姿勢が美しい 『幽☆遊☆白書』は、大人になった今、もう一度読み返したい作品です。

最近は、少しでも人気が出るとすぐに実写化の話があがったり、往年の人気作品が次々と映画化されるなど、漫画が”ヒットを狙う作品の元ネタ”として扱われてしまっているような雰囲気もありますが、実写になろうとなるまいと、漫画は漫画として、既に完成された素晴らしい芸術作品である、という思いを胸に、これからも漫画を愛し続けようと思います。漫画って素敵!

私にとっての文化の秋、それは漫画を読みふける秋です。みなさまも、それぞれの文化の秋を御堪能ください。

Yui Yamawaki
俳優。脚本家。NHK Eテレ「デザインあ」他ラジオCM等で声の出演をすることも。ポンポコパーティクラブ代表。
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