守られてた冬、自分を守る冬

痛い、これが私が住んでる島で冬が来たことの合図

その合図をキャッチしてふと顔を上げると、いつも眺めてる山のてっぺんあ たりが白く化粧をしはじめていた。「今年もきたきた」とどこか心に覚悟す る。冬の風は痛いのだ。肌にツンと冷たい風はまだ秋。ピリっと痛みはじめたら冬。これが私なりの冬の合図となって3年が経った。この島に来るまでは、季節の変わり目は、テレビコマーシャルの変化、街中のプロモーショ ン、雑誌やネットのニュース、消費社会が教えてくれた。私はそれを仕掛ける側の仕事をしていたので、なおさらその社会の移り変わりに敏感になって、季節の変わり目を肌で感じられる敏感さをどこかに置き忘れてしまって いた。

3年前の冬、思い切ってその生活をやめた

何かに導かれるようにある島と出会って、今までこだわっていた“東京で暮らす私”をやめたのだ。それまでの“東京に暮らす私”は、憧れてきたものを 一つずつ手にしてきた。好きな街に一人暮らし、仕事は世の中を動かすような幻想を味わえる消費社会の立役者、友人とはお金を気にせず好きなことをやって大騒ぎ、楽しかった。でも満たされなかった。その先が見えない。それがあの頃の気持ちを正しく表現する言葉かもしれない。つくられた社会に踊らされてるのかもしれないと思った。わずかでも自分の力で生きている感覚を味わいたいと思った。そうしたらその先は見えるのではなく、創り出せると思ったから。

日本海の離島、新しい暮らしのはじまり

そんな私は今不思議な縁で日本海の離島(北のほうにある)に暮らしている。お金で自分を守っていたあの頃とは違う冬の生活に少し慣れてきたところだ。前の仕事から比べたら給料は1/3まで減ってしまった。家は運良く新しい職場に紹介してもらっているが期限付なので、今自分の住む場所をつくっている。島には資源がたくさんある。その一つが空き家だ。誰も住まなくなった空き家は、そのままほったらかしのことも多い。引き継ぎ手が見つかれば、その家に新たな家族が暮らしだす。私はその引き継ぎ手となったのだ。

”暖”をとること、自分を守る冬を痛感

空き家は寒い。古い造りなのか、朽ちている部分なのか、理由はよくわからないが、この家に住むことを考えるとゾッとした。「自分の身は自分で守らないといけない」今までは暖房設備があるのが当たり前、設定温度も気にせず、お湯もかまわず使うような生活をしていた。でもこの島に来てからは、 暖房設備がないことも多く、エアコンではなく石油ストーブがスタンダード。灯油でお湯を沸かしたり、島なので船賃代が上乗せされるエネルギーのコストは高く、いかに“暖”をとるかを、コストと環境に配慮して考えられるかが、腕の見せ所なのだ。(本当に切実な話)

充実してる満たされる、生きる力のある女性

今までどれだけ『守られてた冬』を過ごしてきたのか実感した。小さい頃は 親が風邪をひかない環境を整えてくれていたこと、大人になればお金で解決していたこと、自分の力で解決したことは一度もなかったと思う。今私は、“暖”をとるために床を張りなおしている。床板の下に断熱材を敷いて、 ぬくもりを感じやすい床材を選んで、隙間のあかないように丁寧な作業を心がけて『自分を守る冬』に向けて備えている。靴下を何枚も重ねて履いて、 お腹を冷やさないようお腹もすっぽり覆えるタイツを2枚重ねにし、ヒートテックを3枚着込んで、着ぶくれて全然お洒落ではない格好をしているが、 汗をかきながら自分の暮らす場所を整えるのは、とても充実していて満たされている。生きる力のある女性になることが当面の目標。

おけさ娘 / SADO TALK
都会も大好き、でも住めないね、と心の声を聞いて日本海の離島へどんぶら こ。新潟県の佐渡島にて、毎日の暮らしの中にある”気づき”を伝えるSADO TALKをしなしなと続けています。果樹農家見習いの夫と結婚式場のついた大きな家をリノベしてみようと「まだ名前のない家」プロジェクトはじめま した。

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