ミルク

ミルクは11年前のクリスマスにやってきた
真っ白いフワフワだからミルク
ミルクをあげると喜ぶからミルク 
わたしはそんなミルクがいとおしくてたまらなかった



 「あら可愛らしいお人形さんね。
 お父さんと、お母さんに感謝しないとねえ。」

そう言ってきたのは、祖母の友達の春田さんだった

(おばさんはミルクをお父さんとお母さんのものだと思っているんだ…)

「ミルクはわたしのだから!サンタクロースがくれたんだから!」

むきになって大きな声を出すと、春田さんはびっくりしてきょとんとしていた

それからわたしは、子供心にも、春田さんのことを少し怪訝しながら 
心の中では、”あの言葉”をこねくり回すようにして
ミルクを抱きしめていた

あれから10回のクリスマスが過ぎ
もうじき11回目のクリスマス

わたしは19歳になった

色づく景色に心をときめかせ
街ゆく恋人たちを見ると、なぜかこちらまで少し照れてくる 
同情を唆(そそ)るクリスマスソングに揺さぶられながら
きらびやかなデコレーションケーキに見惚れる

今年のクリスマスは、高校時代の友達が2人、東京へ来る
久々に一緒にディナーでもして、イルミネーションを見て、クリスマスマーケットへ繰り出そうと計画中

それがクリスマス
クリスマスとは
少し甘くてロマンティック

そんなクリスマスを思い浮かべては
駆け出したくなるのを必死で抑えて
ゆっくりと歩く帰り道

そこへ、フワフワと 真っ白な雪が舞いはじめた
わたしは不意に足を止める

”真っ白い、フワフワ…”

「ミルク!」

そう、わたしはミルクのことを思い出した

いつの間にか分かってしまった ”あの言葉”の意味

それとともにどこかへ消えてしまった 大切なクリスマス

そこには、どんなに甘くロマンティックにしてもかなわない
大切なクリスマスがあった

yamadanatsuno
ファッションを学んでいます 「this is our Utopia」という、自己の思想をかたちにするためのプロジェクトを始動しました
趣味は詩を綴ることで、将来の夢はエッセイスト

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