少女時代ティパニからティファニー・ヤング、成長し続ける少女時代

少女時代のティパニ、現在はティファニー・ヤングとしてアメリカでのソロデビューを果たしたティファニーの北米ツアー「Lips on Lips」に行ってきました。


私が参加したバンクーバー公演はベスト・ソロ・ブレイクアウトとしてノミネートされていたiHeart Radio Music Awardsを受賞する前日で、程よい緊張感と高揚感が漂っていて、とてもエモーショナルな公演でした。
印象に残ったのは「Not Barbie」という曲で、「ときどき自分の肌の色が違ったらいいのに、そうしたら馴染むことができるのに」「雑誌を見ても私と似た人を見つけられなかった」「私は他の人と違うことを謝らないし、変わらない」という歌詞からはアジア系アメリカ人として育ったティファニーの経験が込められていることが感じられました。 

私が観に行った公演では「Not Barbie」の時、アジア人の女性たちをステージに上げ、あなたたちはそのままで美しいんだと歌ってそれぞれとハグしていました。


ティファニーは15歳のときひとりで韓国の音楽市場に向かったきっかけとして、アメリカでロールモデルを見つけられなかったこと、そんな時に現れたBoAを観て彼女のようになりたいと思ったことをアメリカの番組のインタビューで語っています。

正直なところ、少女時代が日本で「美脚グループ」として売り出され、人気が出たとき、私は複雑な気持ちでした。日本デビューする前からファンでしたが、それまで彼女たちが韓国で「美脚」であることをアイデンティティであるかのように語られる場面を一度も見たことがなかったからです。本国での活動のほうが「美脚」というような身体の一部の話ではなく、それぞれが個性のある人間として、そして優れたアーティストとして一目置かれて扱われていたように思えました。

なのに日本では紅白歌合戦に出場したときでさえ、彼女たちがパフォーマンスをしているにも関わらず足だけをカメラでフォーカスし続けたことは今でも忘れられません。今までの歴史のことを考えるとそのことはさらにグロテスクです。 

時が経ち、ジェシカの脱退、そして事務所とメンバーのうち3人が再契約をしなかったことで少女時代は解散や脱退との報道がありました。ですが実際のところ、2014年に脱退したジェシカを除いて少女時代を脱退したメンバーは現在一人もいません。

なので、よく日本語のメディアで見られる元少女時代メンバーといった表記には間違いがあります。ティファニーは欧米圏の大手事務所からオファーがあったにも関わらず少女時代として活動するために事務所には入っていません。スヨン、ソヒョンも少女時代の活動を応援する声明を出す事務所としか契約をしていません。他にも様々なメディアでメンバーが少女時代は8人だと語っています。

このことが重要だと思うのは、今まで誰も、そういった形でグループを維持することを成し遂げたガールズグループはいないからです。彼女たちはガールズグループの期限は7年だと言われる世界でデビュー13年目、さらにそれぞれ個人でキャリアを積み続けています。
彼女たちは初めての「事務所を抜けても少女時代」です。

そして、メンバーが今これから何をしようとしているのか知ろうとすることもとても重要です。「82年生まれ、キム・ジヨン」を読んだと自身の番組「90年生まれ、チェ・スヨン」で話してからフェミニズムについて積極的に発言しているスヨンをはじめ、メンバーは自身それぞれが持つ力に自覚的に活動しているように見えます。
ティファニーは今アメリカのさまざまなメディアで女性、とくにアジア人女性のエンパワメント、そして「世界」にはもっとアジア人のレプリゼンテーションが必要だと語っています。彼女がアメリカに戻ることを決めた理由のひとつとして「世界」に変化を起こすためだと言っていました。

残念なのが、こういった情報の多くが英語で発信されていて、日本語でそのことが伝わってくることがほとんどないことです。もちろん熱心なファンは彼女たちの活動を追い続けていますが、それ以外の人たちにとっては「少女時代って昔いたよね」とか「懐かしい」くらいの感覚だと思います。「美脚」として消費された彼女たちが現在どのようなキャリアを積み、どのような活動を行なっているのかという情報が十分でないのはとても残念なことだと思います。

「今あの人たち何してるんだろう」とまるで社会から消えたかように扱われていても、実際のところは消えてなどおらず、むしろ逆の現象が起きているからです。女性の人生は「若く美しい」時期だけではなく、その先もずっと続いていきます。私たちには若くなくなった先にも人生があります。そして、私たちがそれを実際に目撃すること、知ることはとても大切だと思います。それはきっとのちに私たちの生き方にも関わってくるからです。

ティファニーの北米ツアー最後の公演にスヨンがショーを観に来ていて、ティファニーのステージを観ながら涙を拭っているところをファンたちに目撃されていました。私も最近知ったことですが、スヨンの家族は長年15歳でひとり韓国に渡ってきたティファニーの保護者代わりになっていたそうです。そしてスヨンのお父さんは徐々に視力が悪くなり最終的には視力を失う進行性の難病を患っていて、失明撲滅運動本部の会長でもあります。

スヨンは自ら立ち上げた慈善バザーコンサートなどを行なって、収益金を全てそこに寄付しています。 2017年にも慈善バザーのミニコンサートがあり、ティファニーが登場していました。出演が決まった経緯はスヨンの家でスヨンの両親と一緒にご飯を食べてるとき、ティファニーが「なんで私も呼んでくれないの?」とスヨンに言ったことがきっかけだったと話していたように覚えています。



ティファニーとスヨンだけに限らず、ティファニーのアメリカでのシングル曲「Teach You」には現在も前事務所に所属しているヒョヨンが出演していましたし、ひとつひとつを取り上げるとキリがないほど彼女たち8人が交流している様子はほとんど毎日SNSで見ることができます。 幼くは小学生の頃から一緒に苦楽を共にしてきた彼女たちなので、お互いに対して送るメッセージにはいつも泣かされます。とにかく彼女たちはずっとそういうふうに生きてきて、これからも共に生きていくのだというのが伝わってきます。

最近ニュースになっていた父親とは長年うまくいっておらず、中学生のとき母親を病気で亡くしてからとても孤独だったというティファニーですが、10年ほど前「お母さんはもういないけど、8人の姉妹を代わりにくれたことを感謝します」と語っていました。私にシスターフッドという言葉の意味を教えてくれたのは彼女たちです。


とにかく今回は新しい歴史のページの始まりに立ち会えたことがすごく嬉しいですし、彼女たちのような女性がいつも私の希望です。いつか私も彼女たちのようになれるように、そして彼女たちの発信していることがもう少し日本語で伝わる世界を作る手助けになれればいいなと思います。

Tsukasa
Sister Magazine編集部。文筆やインタビュアー、ときどき翻訳をして活動中。